今回は電界強度よ。電気を勉強したての人は聞き慣れないかも知れないけど、これから先の話で使うからここで教えるわね。この概念もなかなかに難しいけど、これを知らずに電気の勉強をする方がよっぽど難しいわ。日本の教育って、無謀なことをさせるのね。

 電界強度っていうのは、文字通り電界の強さよ。単位はボルト毎メートル(V/m)。電界って何だよっていう疑問に答える前に簡単な話からするけど、例えば、長さ5メートルの巨大抵抗器があるとする。これに 10V の電圧をかけると 2 V/m の電界が発生するわ。要は、1メートル進んだ時に電位が何ボルト変わりますかっていう指標よ。

 じゃあ電界って何だよって話に入るわね。電界は、電荷の存在によって周囲に発生する特殊な空間みたいなものよ。目には見えないけど、この空間内にある電荷は影響を受けるの。
 ちなみに電界は「電場」っていう言い方もするわ。「電場と電界って何が違うの?」って聞かれたら、「どっちも同じ」が答え。どっちも普通に使われる言葉だけど、この電気講座では「電界」にするわね。
 それと、電界強度の方も「電界の強さ」って呼ばれることもあって、そっちの方がポピュラーだったりするんだけど、ひらがな混じってると書きにくいから「電界強度」を使うことにするわ。あと、単位はボルト毎メートル(V/m) だけど、空間的な理論の話ではニュートン毎クーロン(N/C) が使われることもあるわ。もちろん次元はどっちも同じよ。

 巨大抵抗器で話をしてきたけど、電界は、空気中はおろか電荷さえあれば真空中でも発生するわ。しかも、ややこしいことに、場所ごとに電界強度が違う。
 前回、2点間の電圧はどんな経路を通っても一緒って言ったわよね。これは空気中を通っても同じことで、最短距離のライン上から外れてるってことは遠回りしてるってことで、総移動距離が5メートルを超えるから電界強度が 2 V/m より小さくなってる場所が絶対にある。あと、ここでは深入りしないけど、端子の近くは電界が強いわ。

 空気中に電流は流れないけど、電界は存在してるのよ。コンセントの穴の近くとか使ってるケーブルの周りにもね。それでも私たちが感電しないのは、金属に直接触らないことには電荷が私たちの体にやって来ない(つまり電流が流れない)からよ。電荷は電界を作るけど、電界そのものが電荷を持ってる訳じゃないの。

 電界についてピンと来ない人は、磁石で言うところの磁界みたいなものだと思っていいわ。あれって、磁石同士を近付けただけで引き寄せられたり反発したりするわよね。磁石が2つあったとしたら、お互いに磁界を作ってお互いに影響を与え合う。離れてると磁界から受ける力が弱いから何ともないけど、近付くとその力が大きくなって、最終的に重力に勝つからくっついたり浮かんだりするのよ。ちなみに磁石は、「磁荷」ってやつを持ってる。

 電界はあれの電気バージョンよ。同じことが電荷同士でも起こるの。ただ、電荷を持ってるものが基本的に目に見えないミクロな存在だから分かりにくいのよね。今回は説明のために、電荷を持ってるものが宙を漂ってるとするわね。すると、電荷を中心に電界が発生するの。下の図みたいな感じでね。

 点状の電荷1個なら実際はこんな雲っぽくなくて綺麗な球状になるんだけど、イメージはこんな感じよ。いつも、「電圧をかければ電荷が動く」って言ってるけど、この電界こそが、電荷を動かす力を秘めてるものなの。でも自分自身から出てる電界からは影響を受けないから、電荷が1個あるだけじゃ何ともないわ。

 だけど、他にも電荷を持ってるものが近くにあれば、その子から出てる電界から力を受けるわ。2個あったとして、プラスとマイナスが1個ずつなら引き寄せ合うし、プラス同士かマイナス同士なら反発し合う。磁石にN極とS極があるのと同じね。
 まず、プラスとマイナスが1個ずつの時を考えるわね。こんな感じよ。

 プラスの電荷は、マイナスの電荷から出てる青い雲から、マイナス電荷の方に引き寄せられる力を受ける。青い雲は、プラスの電荷を自分の中に引き込もうとするの。反対に、赤い雲はマイナスの電荷を引き込もうとするから、マイナスの電荷はプラスの電荷に向かって行く力を受ける。空気は絶縁体だから動けないけどね。引っ張られはするけど、見えない鎖で縛られててどんなに引っ張っても動かないと思えばいいわ。鍵を開けなきゃドアが動かないのと一緒よ。

 で、この雲の中心、電荷がある場所のことなんだけど、ここが一番電位が大きい場所よ。(ただし、青い雲はマイナスの方に大きい)
 「電位がマイナスの方に大きい」っていう時は、「電位が低い」っていうことになるわ。ゼロよりも下だからね。数学的にも、

10 > 0 > -10

っていう表現になるでしょ。これから電位については「高い」か「低い」かで言うわ。電位がマイナス 10V の場所は、マイナス 5V の場所よりも電位が低いの。

 で、プラスの電荷っていうやつは、電位が低い方に向かって行く性質を持ってるわ。青い雲の中心が一番電位が低いから、そっちに行く力を受けるの。反対にマイナスの電荷は電位が高い方に向かって行く性質を持ってるから、赤い雲の中心に向かう力を受ける。


 次、2個の電荷がどっちも同じ極性だった時。プラスの電荷で考えるわね。

 赤い雲が重なっちゃったけど、どっちとも、自分自身から出てる雲からは力を受けなくて、他人から出てる雲から力を受けるわ。さっき、赤い雲はマイナスの電荷を引き込むって書いたけど、プラスの電荷は遠ざけようとするの。なぜなら、赤い雲の中心は電位が高くて、プラスの電荷は電位の低い場所に行きたがるから。だから、左にある電荷はもっと左に、右にある電荷はもっと右の方に行く力を受ける。
 マイナスの電荷同士でも一緒よ。青い雲は、プラスの電荷は引き込もうとするけど、マイナスの電荷は遠ざけようとするの。

 今回はここまでよ。つまり、電界っていうのは、電荷を中心に発生する特殊空間のようなもので、自分以外の電荷を引き込むか遠ざけようとする性質を持ってて、どれほど強い力を働かせるかを数値化したものが電界強度よ。

~column~

 さっきから、電荷は電界から力を受けるとか書いてるけど、実際に何ニュートンの力を受けるのかを考えてみるわね。これが実は、ちょー単純。力を F [N]、電荷を q [C]、電界強度を E [V/m] とすると、

F = qE

の関係が成り立つわ。最初の方にも書いたわよね、ボルト毎メートルの単位はニュートン毎クーロンと同じだって。だから、ボルト毎メートルにクーロンを掛ければそのままニュートンになるわ。
 「いや、上の図、電荷2つありますけど」って思う人、いると思う。そして上の図みたいな時、何ニュートンの力が働くかを出せる公式がある。いきなりその公式を出す前に、F = qE からスタートして考えていくわね。

 qは、電荷そのものの値だから、そのまま使うしかない。電荷が2つあるなら、片方を q1 、もう片方を q2 にしましょうか。で、q2 が出してる電界から q1 が受ける力を考えるわね。だから式中の E は、q2 を基準に考える。点電荷から発生する電界の分布にも、公式があるの。こっちはいきなり公式出しちゃうけど、

E = 1 / (4πε) · q / r2

よ。色々出て来たけど、πは円周率、3.14以下省略よ。ε(イプシロン)は誘電率ってやつで、これは後で静電気とかコンデンサの話をする時に出て来るけど、物質によって決まってる数字で、真空なら 8.854 × 10-12 F/m(ファラド毎メートル)、空気中なら 8.859 × 10-12 F/mよ。空気だと気圧とか湿度とかも関わってくるから、普通はこの手のものは真空で考えることが多いわ。

 qは中心にある電荷のことで、今回では q2 のことね。r は電荷のある場所からの距離よ。電荷から離れるにつれて電界は弱くなる。それも、2乗に反比例で。

だから、q2 の電荷から発生する電界強度を E2 とすると、

E2 = 1 / (4πε) · q2 / r2

になるわ。で、これを F = qE に当てはめると、q1 がこの電界から受ける力 F1 は、

F1 = q1· E2 = 1 / (4πε) · q1· q2 / r2

になるわ。これが、q1 が「q2が作る電界」から受ける力で、反対に、q2が「q1の作る電界」から受ける力を考えると、

F2 = q2· E1 = 1 / (4πε) · q2· q1 / r2

になるわ。かけ算で q1 と q2 の位置が入れ替わるだけだから、同じ数字になる。だから、2つの点電荷があるとき、この2つに働く吸引力(あるいは反発力)は、

F = 1 / (4πε) · q1· q2 / r2

になる。「4πεぶんの1かけるアール2乗分のq1q2」って読むことが多いわね。そしてこれがクーロンの法則よ。苦戦してる人が多いと思うけど、この話ができるのはだいぶ先になっちゃうから待っててね。