さぁて電圧の時間よ。前回ほとんど話をしなかった電位についてもここで触れるわね? ていうかまずは電位から。

 電位っていうのは、力学でいうところの位置エネルギーに相当する存在よ。要は、「この地点の高さは何メートル」って言えるのと同じように、「この地点の電位は何ボルト」って言うことができる。
 そして、質量を持っているものが高い場所から低い場所に落ちるのと同じように、プラスの電荷を持ってるものは電位の高い場所から低い場所に移動していくの。電子はマイナスの電荷を持ってるから逆で、電位の低い場所から高い場所に向かって移動していく。ただし、普通は原子核の中にいる陽子に引っ張られる形で束縛を受けてるから、空気中をフワフワ飛んで行くことはないわ。

 原子核の中に陽子がいるから、そこが既に「電位の高い場所」になってるのよ。陽子はプラスの電荷を持ってて、プラスの電荷が存在している場所は電位が高くなるの。じゃあなんで電子は原子核にぶつからないかっていうと、そこには色んな要素があるから省略。

 電位が高いとか低いとか言ってるけど、この、電位の差こそが電圧よ。まんま「電位差」って呼ぶこともある。「電圧」と「電位差」は同じだと思っていいけど、「電位」だけは違う。電圧と電位差は、必ず2点を指定しなくちゃいけない。「A点とB点の間の電圧は何ボルト」って言い方をするわ。でも電位は、ある1点だけを見て言う。「A点の電位は何ボルト」って感じよ。

 じゃあ電位がゼロボルトの場所はどこかっていうと、地球。「アース」とかいうのは聞いたことがあるわよね? あれよ。冷蔵庫とか洗濯機とかをアースに繋げとか言って壁にネジ端子があったりするけど、あのネジから先の配線が地面に繋がってて、電位がゼロだから触っても感電しない。あのネジから金属でつながってる場所はみんなゼロ電位になるから、何があっても洗濯機本体が電位を持たないようにするためにアースに繋げるの。死にたくなかったらちゃんと守ってね。

 実用上は、電池とか発電機を使って電圧を発生させて(電池はプラス極とマイナス極の2点がある、発電機からは2本か3本の電線が出てるわ)、「ここの電位は何ボルト」っていう言い方をする方が多いと思う。という訳で下の図を見てちょうだい。

 1.5Vの乾電池を3個積み上げたとしましょうか。で、普通やんないだろうけどそれぞれの間に鉄板が挟まってる。これも状況としては不自然なんだけど、3段目の鉄板からレンガの柱に向かって金属のチェーンを引いてるとしましょうか。更に2段目と4段目の間にLEDを接続。で、一番下の鉄板はアースに繋がってる。電池は上がプラスよ。

 まず点Aの電位についてを考えるわよ。これは簡単よね。アースに繋がってるからゼロボルト。書き方としては、

VA = 0.0 V

になるわ。次、点Bの電位。点Aから、1.5Vの乾電池を超えた先にあるから、1.5V よ。つまり

VB = 1.5 V

ね。同じように、

VC = 3.0 V
VD = 4.5 V

になるわ。

 次、点Eの電位。なんか鉄板の先っちょだけど・・・さっきの洗濯機の話を覚えてる人は分かるわよね。アースの場所から金属で繋がれるからゼロよ。だから

VE = 0.0 V

よ。じゃあ、点Fは? アースには繋がってないわねえ。ここ、ちょー重要だからね。分かってる人は「そんなん簡単じゃい」って感じかもしれないけど、複雑になってくると見落としちゃうことがあるのよ。だからここで絶対に覚えて。点Fは、点Bから金属で繋がれてるから、点Bと同じ電位になるわ。だから 1.5V よ。という訳で

VF = 1.5 V

ね。上2枚の鉄板はもう記号を打ってないけど、同じ考え方よ。
 それで最後、点G。3段目の鉄板から、さらにチェーンで繋がれた先。なんかレンガの柱があるけど、これも考え方は点Fと同じよ。金属をずっと追っていきましょ。点Gから、チェーンを超えた先に鉄板があって、その先には点Cがある。だから点Gの電位は点Cと同じ、3V になるわ。

VG = 3.0 V

 それぞれの点の電位が出揃ったから電圧の話に入るけど、その前にもう一度言うわ。金属で繋がってる場所はみんな同じ電位になる。だから点Bと点Fの間の部分も、点Bの左にちょい出てる場所も全部、電位は 1.5V よ。点Cと点Gの間に至っては、たるんでるチェーンの部分も含めて全部、電位は 3V。だからウッカリ触っちゃうと感電するわ。3V ならどうにもならないけど、大きくなると死ぬわよ。実験とかでセッティングをイジる時は、ちゃんと電源を切ってからにしてね。特に、金属部分に触る時は緊張感を持つように。私との約束よ。


 じゃあ電圧を考えていきましょうか。まずは、AB間の電圧。乾電池がそばにあるから簡単なんだけど、注意しなきゃいけないのは、電圧には向きがあるということ。電圧は2点間の電位の差だから、点Aから点Bを見るか、点Bから点Aを見るかで変わってくるの。

 普通、電圧を指定する時は矢印もセットにするわ。こんな風にね。

 この矢印の向きだと、「点Aから点B」を見た時ってなるわ。で、「VBA」って書き方も重要で、矢印の先にあるやつ(Bのことね)を手前に持ってくる。「VAB」って書くと逆になっちゃうからね。この時、

VBA = VB – VA

の関係が成り立つから、

VBA = VB – VA = 1.5 – 0 = 1.5 [V]

って感じになるわ。「AB間の電圧」って聞かれたら、値だけじゃなくてプラスかマイナスかも答えるのがベストよ。「点Bの方が1.5V高い」って言い方をしてもいいわ。

 次、反対、点Bを基準とした時のAB間の電圧。矢印としてはこう。

で、計算すると、

VAB = VA – VB = 0 – 1.5 = -1.5 [V]

になる。点Aの方が電位が低いからマイナスになるわ。


 電圧には向きがあるって話だけど、もっと注意したいのが、人によって決め方がまちまちになっちゃうってこと。私はVAB = VA – VB ってして上の図のように矢印を書いてて、日本電気技術者協会もこうしてるんだけど、もしかしたらあなたの先生は逆にするかもしれない。あと、下付きの文字が1つしかなくて「V1」だとか「V2」になってることもあるわ。(それでも矢印が付いてたら電圧よ)
 だから、一番に信じるのは図中の矢印の向きにすること。「VAB だから VA – VB だな」なんてやり方をしてたら痛い目を見るわよ。図をよく見て、どっちの点から見た電圧を答えればいいのか、しっかり考えてね。

 AB間の電圧の解説が長くなっちゃったわね。全部やるのは億劫だからすっとばしてAD間にいきましょう。もうプラスマイナス考えるのも面倒くさいから、点Aから点Dを見た時の電圧だけを考えるわよ。点Aから点Dに向かって矢印を引くことになるから、

VDA = VD – VA = 4.5 – 0 = 4.5 [V]

よ。簡単よね。次、BD間。どっちもアースに繋がってないから、ちょっとだけランクアップよ。だけどやることは同じで、点Bから点Dを見た時の電圧を考えると、

VDB = VD – VB = 4.5 – 1.5 = 3.0 [V]

になるわ。だから、点Bと点Dの間に電圧計が繋がってたとして、電圧計のマイナス端子が点Bに、プラス端子が点Dに繋がってたら、プラス3V を指すわ。ケーブルが逆に繋がってたら マイナス3V を指す。アースがどこにあろうと変わらないってことは分かったかしら? とにかく、2点間の電位の差が電圧よ。

 今、BD間の電圧をVD – VBで考えたけど、点Cも入れて細かく考えたらどうなるかしら? もちろん答えは同じ 3V になるわ。考え方としてはこう。

VDB = VDC + VCB = ( VD – VC ) + ( VC – VB ) = VD – VB

 結果として VC が打ち消し合っちゃうんだけど、BD間の電圧は、BC間の電圧とCD間の電圧の足し算になるわ。当然っちゃ当然だけど、これ、ちょー重要だから。ていうか、これ、キルヒホッフの第2法則だから。キルヒホッフって単語を始めて聞いた人は、そのうちキルヒホッフの回になるから、それまで一緒にじっくりいきましょ。で、キルヒホッフに苦戦してる人たち。ここから先の話をちゃんと聞きなさい。

 今、点C経由でBD間の電圧を考えたけど、点Bからは右に鉄板が出てて、点Fと、LEDも経由して点Dに行ってるわよね。図にすると、こう。

 新しく点Lってのを付けたのと、VLEDとVDLを定義したわ。矢印の向き、ちゃんと見といてね。もう図ではLEDが点いてることになってるんだけど・・・まずLEDは点くのかっていうのを考えるわね。そのためには、VLEDが何ボルトになるか分かればいい。これまでの考え方を踏襲すれば、

VLED = VL – VF

だから、VL と VF が分かればいいわ。VF は、上の方でも出たわね。1.5V よ。で、VLは、D点から金属で繋がってるからVDと一緒で 4.5V 。だからVLEDは、

VLED = VL – VF = 4.5 – 1.5 = 3.0 [V]

になるわ。このLEDが 3V で点くやつなら、点くわね。もし 10V ないと点かないやつだとこの回路じゃ点かないわ。逆に、1V で点くやつとかだと、電圧のかけすぎで壊れるわ。あとLEDだと、電流を抑えるために直列抵抗が必要になるものもある。道具を使う時は、スペックをよく確認してね。


 それじゃあ、BD間の電圧をLED経由で考えるわよ。やり方としては点C経由と一緒で、BF間の電圧、FL間の電圧、LD間の電圧を求めて、全部足せばいいわ。つまり、

VDB = VDL + VLED + VFB

よ。VLED はさっき 3V に決まったから、あとは VDL と VFB の2つね。まずはVFB。ここまで読んできたみんなは「1.5Vの電池の上にあるから1.5V!」って叫んだりしないわよね。叫んじゃった人は基本に帰って計算よ。

VFB = VF – VB = 1.5 – 1.5 = 0.0 [V]

 答えはゼロ。金属で繋がってれば電位が同じって何度も言ってきてるけど、電位が同じってことは、電圧(イコール電位差)はゼロよ。VDLも同じように、

VDL= VD – VL = 4.5 – 4.5 = 0.0 [V]

になるわ。3段の電池の上にある場所だけど、どっちも3段上にあるから、その2点間の電圧はゼロよ。でも電位はちゃんと 4.5V あるから触ると感電するわよ? 鉄板の上に完全に乗ってしまえば別だけど、乗ったまま他の電位の場所に触ると感電するわ。4.5V じゃケガもしないけど。

 これでLED経由でのBD間の電圧が計算できるわね。

VDB = VDL + VLED + VFB = 0.0 + 3.0 + 0.0 = 3.0 [V]

答えは3Vで、点C経由の時と同じになるわ。まとめて書けば、

VDB = VDC + VCB = VDL + VLED + VFB

よ。点C経由でもLED経由でも一緒になるのは、偶然じゃないわ。電気というものは、そういう風にできてるの。LEDを豆電球に変えようが、直列にいくつも増やそうが、BD間に石のハシゴを架けようが、糸を引っ張って地球一周して来ようが、どんな経路を取ったとしても必ず同じ電圧になる。これがキルヒホッフの第二法則よ。法則の文章としては「総和はゼロになる」って書いてあったりするけど、これは点Bから点Dまで行った後、別の経路で点Bまで戻るからよ。点Dから点Bまで逆走した時の電圧はプラスマイナス逆になるから、足したらゼロになるってワケ。

 大事なことなのでもう一度。ある2点間の電圧を考えた時、どのような経路を通ったとしても、必ず同じ電圧になる。電気回路の計算で行き詰った時は、まずはこれを思い出して、1個所1個所の電位を考えて地道に計算していけば、答えに辿り着けるはずよ。頑張ってね。