さて、ようやく普段から耳にする電流の話よ。電流とは何ぞやってとこなんだけど、前回の最後ででてきた、

[A] = [ C / s]

がそのまま答えよ。単位時間当たりに通過する電荷が、電流。例えば電線が1本あったとして、1秒間の間に、ある地点を通過している電荷が1Cなら、1A の電流が流れてることになるわ。全部1だと分かりにくいわね。数字を変えるけど、2秒間の間に、ある地点を通過している電荷が10Cなら、5Aの電流が流れてることになるわよ。

 アンペアは7つの選ばれしSI基本単位の1つなのにクーロンと秒の存在の上に成り立つのかよって思うかもしれないけど、実際そうだからその認識でいいわ。クーロンの方を基本単位にしなかったのは、電荷って、測りにくいのよ。電流なら測るのはそんなに難しくない。
 電流はクーロンと秒の存在の上に成り立つし、秒の方はヘルツの存在の上に成り立ってるから、SI基本単位の定義としてはややこしいことになってるわ。マジめんどくさいからコラム行きね。気になる人は見てちょ。


 ここで一旦電荷の話に戻るけど、電荷は電流と時間の掛け算だった。これ、どこかで見覚えなぁい? そう、スマホとかのスペックに書いてある、バッテリー容量は何ミリアンペア時(mAh)ってやつよ。あれは、そのバッテリーがどれほどの電荷を蓄えることができるかを示してるもので、立派な電荷の単位の1つよ。だけどSI単位じゃないから注意して。ぶっちゃけバッテリーの計算ぐらいでしか使わないから、テストの問題とか会社の技術資料とかで勝手にクーロンをアンペア時に変えちゃダメよ。

 クーロンはアンペア秒と同じだから、

1 Ah = 3600 C

になるわ。バッテリーのスペック値として書くときは4ケタいってもミリを使うことが多いけど、例えば 4000mAh のバッテリーがあったら、4Ah だから 14400C の電荷を蓄えることができるってこと。せっかくだからこのままバッテリーを例に電荷と電流の関係を見ていくわ?

 まず、バッテリーに対しては負荷がある。スマホ本体のことよ。液晶パネルがあるし、イ〇テルじゃなくても色々入ってる。図で描くとこんな感じよ。

 普通はバッテリーもスマホと一緒になってるけど、ここでは分けて考えるわね。強引に配線すれば使えなくもないし。

 スマホのカタログとかには、連続使用可能時間が書いてあるわよね。「バッテリー10時間もちます!」とかいうアレよ。4000mAh のバッテリーが10時間もつなら、そのスマホは使ってると 0.4A の電流が流れ続けることになるわ。こんな感じね。

 電流が流れると、バッテリーに蓄えられてる電荷が減っていくわ。0.4Aの電流が流れてるなら、1秒につき 0.4C ずつ減っていく。そして、14400C の電荷を使い切ったらバッテリー切れよ。流れ的にはこうね。

 電流と電荷の動きをグラフにするとこんな感じになるわ。電流と電荷で明らかに目盛が合ってないけど許して? 1万オーバーの数字と0.4を同時にプロットするのはムリちょ。ゼロの場所は電流も電荷も同じだから、1マス分の数値がそれぞれ違うと思って。

  さっきから、「0.4A の電流が流れてるから10時間で 14400C の電荷が失われる」みたいな言い方になっちゃってたけど、正確には、「このスマホを使ってると10時間で 14400C の電荷が失われるから、0.4A の電流が流れてることになる」よ。電荷の移動が先にあって、それによって電流が定義されるの。

 それと、この 0.4A っていうのは、あくまで平均よ。画面が消えてる時は減るし、動画とか見てると増える。要は、スマホを頑張らせるとたくさん電荷を使うから電流が大きくなる。てなワケでちょっと、流れる電流がコロコロ変わる時ってのを考えましょうか。これでどうかしら。電流が増減が極端だけど気にしないで?

 あらあら、9時間でバッテリー切れになっちゃったわね。とにかくフル充電なら電荷は 14400C スタートで、スマホの電源が入って電流が流れると、バッテリーに残されてる電荷が減っていく。電流が大きいと急速に減るし、小さいと緩やかになるわ。で、最終的にゼロクーロンになったらバッテリー切れ。

 細かく見て行くと、最初の2時間は 0.4A だから、その間に

0.4 * 2 * 3600 = 2880 [C]

の電荷が失われてるわ。次の2時間が 0.8A だから、更に

0.8 * 2 * 3600 = 5760 [C]

が失われてる。次は0.4Aで3時間動かすから、その3時間の間に

0.4 * 3 * 3600 = 4320 [C]

が失われてる。そこから先は節電して 0.2A になるけど、残ってる電荷が

14400 – 2880 – 5760 – 4320 = 1440 [C]

だから、

1440 / 0.2 = 7200 [s] = 2 [h]

経ったところでバッテリー切れになる。

 さて、最後バッテリー切れで落ちちゃったけど、トータルで失われた電荷は、

 0.4 * 2 * 3600
+ 0.8 * 2 * 3600
+ 0.4 * 3 * 3600
+ 0.2 * 2 * 2600

= 2800 + 5760 + 4320 + 1440

= 14400 [C]

になるわ。これがバッテリー容量だから当然ね。流れる電流がコロコロ変わるけど、電流が一定になってる期間ごとに計算して、最後に全部足してあげればトータルの電荷になるから、例えば「7時間経過時点でのバッテリー残量を計算しなさい」って言われても大丈夫ね。

 実際にスマホを使ってる時の電流の動きはもっとウネウネしてるんだけど、1時間とか2時間ごとじゃなくて、1秒とか0.1秒とかもっと細かく刻めば「その期間は電流が一定である」と見なすことができて、例えば0.1秒ごとに失われる電荷を計算して全部足していけば、ちゃんと導き出すことができるわよ。これが積分の概念なんだけど、その話はまたいずれ。物理の勉強をしていると、どうしても数学は必要になっちゃうのよね。


 上のグラフ、9時間でバッテリー切れちゃったね。スマホってスペック通りにもたないこと多いけど、その時はメーカーが想定してる平均以上の電流が流れてることになるわ。スペック表には注意書きで「こういう使い方をした時に10時間もちます」みたいなことが書いてあるはずで、あれはまんま「こういう使い方をした時に 0.4A の電流が流れます」って意味よ。

 いや電流と電荷だけでバッテリー持続時間決まるのかよ、電圧とか電力は? って思った人、いるかもしれない。だからちょっとフライングで話をするわ?
 まず、スマホとかのバッテリーは、出力電圧が3.7 Vって決まってる。そんな中で、「このスマホで流れる平均電流は0.4 Aです」っていうのは、「このスマホの平均消費電力は1.48 Wです」ってことよ。(電力は、電流と電圧のかけ算ね)

 これも一緒にグラフにしましょうか。やっぱり目盛がバラバラだけど許して? ゼロの位置だけはみんな同じよ。

 実は、電圧が3.7 Vで固定だから、電流の動きと電力の動きがシンクロする。電圧が固定っていう前提があるから、電流だけで議論できちゃうのよ。
 家にある電化製品も一緒ね。電圧が 100V で固定っていう前提があるから、「 600W の電子レンジを動かせば 6A の電流が流れる」って言えるのよ。ブレーカーは、例えば 30A 以上流れると落ちるやつなら、3000W までは同時に使える。ブレーカーが分岐してたら、それぞれの分岐先で「個々のブレーカーの許容電流値の100倍」ワットまでよ。

 電源タップも一緒。15A までって書いてあったら、そのタップで同時に使うのは 1500W までにしてね。ブレーカーと違って自動で遮断する機能がないから、焼き切れたり煙ふいたりするわよ。


 そんな訳で、電流の話はここまで。いやオームの法則は? って人もいるかもしれないけど、もうちょっと待ってね。電圧とか抵抗の話もしてから、一緒にやるから。焦らずじっくりいきましょ。

~column~

 さて、電流はSI基本単位の1つよ。単位時間当たりに通過する電荷、で覚えてもらっていいけど、学術的な定義は別にあるわ。これよ。

「アンペア(A)は電流の SI 単位であり、電気素量 eを単位 C (A s に等しい)で表したときに、その数値を1.602176634×10−19と定めることによって定義される。ここで、秒は ΔνCs によって定義される」

 イ・ミ・フ。覚えなくても損はないわ。

 電気素量だとか ΔνCs だとかのイミフ要因がいるわね。電気素量っていうのは電子1個が持ってる電荷の絶対値のことで、1.602176634×10−19クーロンよ。これは正確な値で、最後の「4」の後ろはずっとゼロよ。というよりは、電子1個が持ってる電荷の大きさを1.602176634×10−19クーロンに定義して、この定義の上にSI単位を存在させようっていう風になったのよ。(実は、わりと最近に変わってこうなった)

 次、ΔνCs。これはセシウムの超微細遷移周波数ってやつで、電気素量と同じように数値が決まってるわ。9192631770 ヘルツよ。92億ね。
「秒」の定義が、ΔνCsを9192631770ヘルツに定義した上でヘルツの逆数を秒とする(つまり、[s] = [ 1 / Hz ] にする)、って感じになってるから、電流の定義の中に ΔνCs ってやつが登場するの。

 そんな訳で電流は、「電子1個が持ってる電荷の大きさを1.602176634×10−19クーロンに、セシウムの超微細遷移周波数を9192631770ヘルツに定義した時、1 クーロン毎秒を1アンペアとする」、っていうことになるわ。

 秒とアンペアに限らず、7つのSI単位は電気素量とか ΔνCs みたいな戦士が他に5個いて、それらの数値を正確に定義する上に成り立ってる。というか学者たちが成り立たせた。メートル原器とかキログラム原器はお役御免になったわ。興味がある人は調べてみてね。