電流、電圧、抵抗の話がひと通り終わったところで、電力の話に入っていくわ。と言っても多くの人が知ってるかしら。電流と電圧をかけ算したアレね。
 日常生活でも家電とか契約電力で見かけるけど、電力って何ぞ? ってところを言うと、単位時間当たりに消費される電気エネルギーのことよ。単位はワットが使われるけど、その次元はジュール毎秒と同じ。物理学で言うところの「仕事率」に相当するわ。というか、電気の世界では仕事率のことを「電力」って呼んでるのね。

 となると仕事率の話をしなきゃいけなくなる。そもそも物理では、ある物体が他の物体に何らかの形で作用したとき、「仕事をした」って呼ばれるの。
 じゃあ電気が行う「仕事」とは何なのかって言うと、私たちが普段からお世話になってる、「部屋を明るく照らす」とか、「冷めたご飯をあっためる」とか、「スピーカーから音を出す」とか、こういったもの全部が、電気が行っている「仕事」よ。そしてその「仕事」をする時、電気エネルギーが消費される。1秒当たりに1ジュール消費されれば、1ワットよ。

 電流は電荷の移動そのものだって言ったのは覚えてるわよね? 照明もレンジもスピーカーも、電圧をかけて電子を送り込むことから全てが始まってるの。
 電気がどうやって光とか熱とか音に変わってるかは省略するけど、光も、熱も、音も、エネルギーよ。発電所からやってきた電気エネルギーが家電の中で変換されて、光となって部屋を照らし、熱となってご飯をあっためて、音となって私たちの耳に入る。

 今見てるスマホとかパソコンの画面もそう。コンセントからもらった電気エネルギーをバッテリーに蓄えて、それが放出されることであなたはこの画面を見れてるの。電気エネルギーが光に変わって、真っ暗だったスマホとかパソコンの画面が灯るのよ。
 レンジであっためたご飯も一緒。コンセントからもらった電気エネルギーを使って、ご飯をあっためたの。食べる時に感じるあったかみは、電気エネルギーが熱に変わったものよ。電気は目に見えないけど、消費された電気は最終的に私たちの五感で感じられるものになってるの。

 じゃあ発電所ではどうやって電気エネルギーを生み出しているかって言うと、水流して水車回したり、もの燃やした蒸気でタービン回したりしてる。脱線するから細かいことは省略するけど、磁石を回すと電圧が発生するのよ。要は、運動エネルギーを電気エネルギーに変えてる。それやるのにコストが掛かるから、電気使うのに金が掛かるワケね。


 さて分かりやすいことに、電圧と電流のかけ算が電力になってる。せっかくだからこれに「なんで?」を突き付けましょうか。

 まず、電流はSI基本単位の1つだから、その存在は絶対的。クーロン毎秒よ。

 次、電圧。これは、電荷を動かすためのものだった。電圧の存在によって電界が発生して、その電界から力を受けて電荷が動く。電界のページでコラム送りにしちゃったんだけど、電荷が電界から受ける力は、電荷をq[C]、電界強度をE[V/m]とすると、

F = q·E

よ。単位はニュートンね。物を手で押すと与えた力に応じて動くのと同じように、力を受けた電荷は動く。電界による力は目に見えないんだけど、磁力みたいなもんだと思って。とにかく、力を受けて電荷が動く。普通の電気伝導だと電荷の担い手は電子で、これがたくさんワーーッって動くんだけど、そもそも「物質が動く」っていうこと自体が物理学における「仕事」なのよ。
 だから電圧は、「電子を動かす」っていう「仕事」をやってる。力学の話になるから詳細は省くけど、「仕事」の単位はジュールで、それは力F[N]と、実際に進んだ距離x[m]のかけ算になるわ。式で書くならば、こう。

W = F·x

 ここで出て来たWは「仕事」の記号で、電力の単位であるワットとは別ものよ。「仕事(Work)」の頭文字がWだからこうなっちゃうのよね。電力を表す記号はP(これはPowerの頭文字)。電力が5ワットの時は「P = 5 W」って書くし、「仕事」が5ジュールの時は「W = 5 J」って書く。まどろっこしいけど、ごっちゃにならないようにしてね。

 さて、与えた力と進んだ距離の積が「仕事」だった。力ってのは F = q·E だから電荷と電界強度の積よ。だから

W = F·x = q·E·x

になるわね。ついでに言うと、電界強度は、単位距離当たりの電圧だった。つまり、

E = V / x

ね。てなワケで、

W = q·E·x = q·(V / x)·x = q·V

になる。電荷と電圧の積が「仕事」になるっていう不思議な式なんだけど、これは、「1ボルトという電位差を1クーロンの電荷が乗り越えるのに1ジュールの仕事が必要」という意味よ。これは力学とは別の話で、「電荷を電位が異なる場所に移動させる」ことも「仕事」なの。たくさんの電荷を移動させるほど大きな「仕事」が必要だし、乗り越える電位差が大きいほど「仕事」もたくさん必要。

 さて、「仕事」については分かった。電力は「仕事率」、つまりは「1秒当たりの仕事」のことだから、「電荷を電位が異なる場所に移動させる」というのを1秒当たりにどれくらいするかよ。まず簡単な話として、電力Pは、

P = W / t

になる。「仕事」を時間で割っただけよ。これに W = q·V を代入すると、

P = q · V / t = ( q / t ) · V

で、「クーロン毎秒」ってのが電流だったわよね? だからこうよ!

P = ( q / t ) · V = I · V

 じゃーん! 電流と電圧の積が電力になりましたー! 家電の中で色んな働きをして光だの熱だのを生み出してくれる電子を送り込むことが「仕事」なのよ。電力は単位時間当たりの「仕事」のことで、金属中の電子の数は決まってるから、いかに速いスピードで電子が送り込まれるかで電力は決まる。

 でも電圧は100V固定だから、電子の移動スピードを決めるのは、家電側の抵抗。抵抗が大きいほどたくさんの「仕事」が必要って思いたいところだけど、抵抗が大きいと電子の移動スピードは落ちるから、消費電力が小さい家電っていうのは内部抵抗が大きい。


 やっとこさその話に入るんだけど、家電で使ってる100Vは交流電源で、電力の計算がややこしいから直流で考えるわ。(交流回路は、また遠い未来で・・・)

 まず、簡単な話ね。電源に抵抗1個繋いだだけ。この時に、抵抗で消費される電力を求めよう!

 電流と電圧の積が電力だから、電流を出さないといけないわね。電流をIとするとそれはV / Rだから、

P = I · V = ( V / R ) · V = V2 / R

ね。上の回路図にはVとRしか載ってないから、こういう時は最終的な答えもVとRで書かなきゃダメよ。じゃあここで、上の回路を左右に切り離して考えるわよ?

 説明しやすさの都合で I も図中に入れたわ。白丸同士をくっつけると I = V/R の電流が流れることになるわ。左側は電源、つまり抵抗に「仕事」をさせるための電子を送り込むもの。この、電子を送り込むことが電源の「仕事」ってことになるわね。その1秒当たりの「仕事」に相当する電力をP1とすると、

P1 = I · V

になるわ。端的に言うと入力電力ね。これに対して、抵抗側が1秒当たりにする「仕事」が出力電力になるわ。抵抗がする「仕事」ってなんじゃいってトコなんだけど、ぶっちゃけ、発熱しかない。電流流しまくるとアッチッチになるわよね? あれこそが、彼がやった「仕事」よ。私たちにとって不本意なものもあれば、オーブンとか電気ストーブみたいに利用することもできる。

 で、その出力電力をP2にするけど、それは、抵抗にかかる電圧をVLoadとすると、

P2 = I · VLoad = I · ( I · R ) = I2 · R

になる。でも普通、このまま抵抗1個だけを繋いだら V = VLoad だから、

P1 = P2

になるわ。効率100%! やっふー!


 ところがどっこい、実際の配線ではそうはいかない。なぜならば、配線自体が抵抗を持っているからよ。図にすると、こう。

 Rwireが配線抵抗で、ただのRが負荷抵抗ね。で、電源から供給されるのが入力電力P1で、Rで消費されるのが出力電力P2よ。まず入力は考えるまでもなく、

P1 = I · V

ね。出力も同じように

P  = I · VLoad

になるけど、配線抵抗のせいで V = VLoad にならないから、このままじゃ比べられない。VLoad を求めにいくと、

VLoad = I · R

で、電流は電源電圧÷全体の合成抵抗だから、

I = V / (R + Rwire)

になって、

VLoad = I · R = V · R / (R + Rwire)

になるわ。効率は当然P1とP2と比なのだから、

で終了。結局のところ、配線抵抗も含めた全体の抵抗に対して負荷抵抗がどれほど占めてるかって話になる。配線抵抗が大きいほど効率が落ちるのは当然だし、直感的につかみやすいわね。

 あと、配線の方に取られちゃう電圧(I·Rwire)を「電圧降下」って呼ぶのと、配線で無駄に消費されちゃう電力(I2·Rwire)を「電力損失」って呼ぶわ。見ての通りどっちも電流が大きいほど大きくなるから、電柱とか鉄塔の電線は電圧を高くして電流を抑えて、ロスが極力小さくなるようにしてる。送らなきゃいけない電力は P = IV だから、電圧を上げれば電力固定のまま電流を小さくできるの。

 じゃあ実際の電力系統はどうなってるかと言うと、こんな感じ。実際は三相交流ってやつなんだけど、複雑になっちゃうから単相の絵で許して。あくまでイメージよ、イメージ。

 並列になってるけど理屈は同じで、それぞれの街が必要としてる電力を発電所から送るのよ。でもって次が、私たちの電気代に直結する電力量! お楽しみに!